「1年生の時を考えるとラクロス部には感謝しかない。人間として成長できた。」
4月。サークルや部活の新歓のために多くの学生が日吉キャンパスで声を張り上げる。希望に満ち溢れた新入生たちは充実した大学生活を送るべく、先輩たちから貰う数多の選択肢の中からそれぞれの道を作っていく。そんな多くの勧誘の中でも女子ラクロス部は大きな武器を持っている。”日本一”だ。日本で最初にできたラクロスのチーム。そして2度の真の日本一。その言葉に魅力を感じ、憧れてラクロス部の門を叩く部員は非常に多い。
とはいえ100名近くいる部員。全員がそのような思いで入部する訳ではない。石川のどかもその一人だった。それまでやってきたスポーツはテニス、水泳、スノーボード、サーフィンと個人競技ばかり。さらに高校時代は留学などもあり部活動には一切所属していなかった。そんな彼女とラクロス部を繋いだのは「良い友達もできるし大学ではスポーツをやってみれば」という両親のすすめだった。慶應大学合格後の春休みにラクロス部の体験会に参加し、入部を決断した。
「最初は友達作りのために入部しようと思った。幼馴染からも4年間続いたら奇跡だと言われた。」”日本一”という言葉に魅了された訳でも、ラクロスに興味があった訳でもなかった。入部が決まり新入生同士で送り合う自己紹介では仲間たちが日本一への熱い思いを記していた。その中で石川は「チーム全体でラクロスの強いチームになりたいです」と書いた。自分がいつまで続けるかも、チームがどれくらいの強さなのかもあまり分かってなかった当時の石川が捻り出した言葉だった。
「最初はパスもキャッチもできないし、内部生とも壁があったりして楽しくなかった。」基本となるプレーができず練習もうまく進まない。人間関係という面でも内部から上がってきたメンバーとの壁を感じていた。
転機となったのは夏の新人戦の頃だった。3つの変化があった。1つは技術的な変化。パスやキャッチといった基本的なプレーを習得し、こなせるメニューも増えてきた。2つ目に周りとの壁がなくなった。夏の新人戦を経て感じた同期と優勝したいという思い。そして部の荷物の運びこみなど、きつい仕事を全員で協力して行ってきたこと。周りとの距離感はなくなっていった。3つ目はトップチームへの意識。
当時育成を担当していた3年生はトップチームとサブチームの中間でプレーする選手だった。育成に時間を使いながらも自身のトップチーム入りへ向けて練習する先輩の姿を見て、「やるからにはトップの選手になりたいな」と強く感じた。
そして憧れの選手に出会えたことも彼女のラクロスへの意識を変えた。昨年卒業した竹村薫だ。「1年生の時にトップチームのスタメンで雲の上の存在だった薫さんが練習を見てくれたり、声をかけてくれたことが嬉しかった。」時に怒られることもあったが、それも期待の裏返しだろう。憧れの先輩とともに昨年は日本一も経験した。
まさに激動の4年間。全く予想できなかった大学生活を送ってきた彼女は今季、トップ幹部としてチームを支える。練習中こそチームを仕切るため厳しい一面も見せるが、練習が終わると選手一人一人に声をかける。さらに可能な限り1年生の練習にも参加する。「自分がこうしてもらったことが嬉しかった。1年生はなかなか気付かないけど全員が一つのチームだよということを見せたい。」4年生の今だからこそ自分の経験を生かして後輩たちを指導していく。石川もまた後輩の憧れになっていくだろう。
4年間の集大成となるシーズン。2連覇へ向けてあくまで挑戦者であると語る。「昨年は日本一になったけれど、もう一度自分たちの代で日本一になりたい。」友達作りのために入ったラクロス部。3年前、日本一になりたいと言えなかった一人の新入生が最高の”友達”とともに再びの日本一を狙いにいく。
(森田悠資)