攻撃陣のエース、西村沙和子。2年生の六大学戦でスタメンに抜擢されると、その後もトップチームでチームの勝利に貢献し続けた。そんな華々しいキャリアを持つ彼女が考えていたこととは――。
幼いころからラクロスをプレーしていた西村。早慶定期戦や全日本選手権を見ているうちに、慶應ラクロス部に入りたいと昔から思うようになっていた。しかし長年の思いとは裏腹に、入部直前に骨折。大学ではケガからのスタートとなり、ケガが治るまではひたすらリハビリを行うしかなかった。
そんなブランクがあったとはいえ、やはりラクロスの能力は負けず劣らず。9月にケガから復帰すると、そこからは1年生チームからBチームまで一気に上がっていった。同期がほとんどいないトップチームで「初めは先輩についていくのが大変だった」というが、下級生ながらトップの試合への出場を続け、徐々にエースへと成長していった。
一見すると順風満帆なラクロス人生を送る彼女だが、大学でのキャリアの中で、意識が変わるきっかけになった出来事がある。それは2年生の早慶定期戦。10連覇を懸けて挑んだ試合だったが、結果はまさかの敗戦。昔から早慶戦を見ていた西村にとって、慶應が勝つことは当たり前のことであり、「自分が慶應を勝たせる」のではなく、「勝つ慶應に自分が出場している」と思っていた。しかし、そんな慶應が負けてしまい「負けは私のせいなんじゃないか」とショックを受けた。その経験があったからこそ、慶應の代表として戦う意識が西村の心に生まれた。その後のブロック予選中にAチームに昇格したこともこの意識をさらに強め、「チームを引っ張らなきゃ」と奮起するきっかけとなった。
早慶戦で敗戦、関東リーグでもブロック予選で敗退と苦しい結果が続いた2年生からは一転、3年生では社会人チームをも破って日本一に輝いた。もちろん西村も日本一の立役者の一人であるが、日本一への戦いの中でも意識の変化があった。大学選手権準決勝の後、コーチから「君たちは関東の代表なんだ」と言われたという。そこで、自分はもはや慶應の代表ではなく「関東の代表」なのだ、大学日本一になれば「学生の代表」になるんだという責任感が芽生えた。
日本一のチームとして挑む今季。西村が目標として語ったのは少し意外な言葉であった。「絶対に日本一を目指す、というよりは全部勝っていきたい。どこのチームより長くプレーしたい。目の前の相手に勝ち続けることが一番大きな私の目標です」誰よりも長く第一線でプレーしている彼女だからこその言葉なのだろうか。様々なプレッシャーもある中で、こんな冷静な言葉を残した。この落ち着きは、実はプレーにも表れている。彼女のプレーの強みはスピード。他に引けを取らない素早さでゴールを量産してきた。しかしそんなスピードだけではなく、落ち着きを常に保っていられるのも彼女の強みだ。チームが悪い流れの中にあっても平常心を忘れずにプレーをし、流れを引き寄せる、そんな力も持っている。
長年チームを引っ張ってきた西村も、もう4年生となった。集大成となるシーズンだが、焦ることはなく「最高学年でも意外と自由にやらせてもらってる」と語る。後輩が気後れしないように気にかけたり、慶應女子高校のコーチを継続して務めたりと、未来のラクロス部のことも少しずつ考えるようになったという。豊富な経験値と、スピードと落ち着きを兼ね備えたプレーで今季のチームを引っ張っていく。
(慶應スポーツ新聞会・伊藤史織)