順調と挫折を経て。西村佳子は偉大な先輩を超えられるか。

「一瞬だけですけど、今までやってきたことは何だったんだろうって思ってしまって。」西村佳子は5月の早慶戦前日、メンバー発表のときの心境をこう述懐する。春の大一番である早慶戦で、まさかのメンバー外。今季は運営面では春幹部としてチームを引っ張り、選手としてもトップチームでの出場機会が増え、少しずつ自信をつけていた矢先に味わった挫折だった。

中高6年間バスケットボールに打ち込んできた西村が、大学入学後出会ったスポーツがラクロスだった。最初はフィールドプレーヤーだったが、1年生の途中に成り行きで受けたオーディションに合格し、ゴーリーに転向した。今不慣れなポジションに悪戦苦闘しながらも、正確なスローを見出され昨季から準リーグで正ゴーリーを務めるようになると、10月にはトップチームに昇格。ここまで順調にステップアップを果たしていたが、その後はトップチームに在籍しながらなかなかベンチメンバーに入れないもどかしい日々が続いた。

今年の春、そんな西村に転機が訪れる。4年生が就職活動でチームを離れる間、代わりにチームをまとめる春幹部に指名されたのだ。「先輩たちがやっていたことを引き継ぐにあたって、戦術面の理解がまだまだ足りていないことがわかった。幹部がわかっていないと当然チームにも伝えることもできず、苦労した。」責任のある立場に就いたことで4年生の偉大さを改めて痛感しながらも、「先輩たちに追いつきたい、追い越したい」その一心でチームのために身を粉にして働いた。だが、西村が早慶戦の舞台でプレーすることはかなわなかった。「春幹部として毎日のようにチームのことを考えていたのに、そのフィールドに立てないんだ。」落胆は大きく、その日はずっと泣いていたという。それでも翌朝にはしっかり気持ちを切り替え、スタンドからメンバーに惜しみない声援を送った。「自分がどうこうではなく、チームが勝てばいい。」本心からそう思えた。チームが勝つためにどのような役割を果たすべきなのか常に自問し、コーチから言われたことを実践するだけでなく、主体的に問題意識を持って行動する。トップチームでの下積み、春幹部の経験が、西村を精神的に大きく成長させていた。

入部間もない頃、大久保HCにつけられたあだ名が「戦車」。ボールを持ったらわき目もふらずに単独でアタックを仕掛ける、フィールドプレーヤー時代のプレースタイルが由来だという。「ふつう、戦車ってあだ名つけられないじゃないですか」。西村はそう笑って当時のことを振り返る。あれから2年。プレーでもそれ以外でも視野が広がり、周りを見る余裕が出てきた。精神的にもたくましくなった。低学年の頃「情緒不安定というか、シュートを決められたら落ち込むし、ミスをしたらその後引きずってしまうタイプだった」という昔の面影はもう感じられない。

現在のトップチーム内での序列は大沢かおりの2番手。西村にとって、大沢は入部以来文字通り目標にしてきた存在だ。「けいさんは私が1年生のときからずっと上にいて、ずっと背中を追い続けてきた。先輩も昨年リーグ戦でベンチに入っていてもなかなか出られない、そんな時期を経て今年はずっと一枚目で出ている。そういう意味では今の私と似たような状況で、だからこそ先輩の覚悟みたいなものが見える」。先輩も通った道だと思うと、挫折や失敗を自らの糧にできた。先輩の背中を追うことで成長できた自分がいる。それでも、と彼女は続ける。「同時にすごく悔しいし、早く抜かしたい。」尊敬してやまない先輩に対して、覗かせた対抗心。背中を追いかけるだけじゃなくて、むしろ追い越せるぐらいに。”先輩たちのいる”この秋に賭ける彼女の本気を感じた。(江島健生)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です