一瞬に懸ける想いは誰にも負けない。慶應支える仕事人・橋本ひかる

スポーツにおいてワンポイントで起用される選手は、どの競技であっても試合の流れを左右する場面で投入されるカギとなる選手だ。例えばバレーボールであれば、前衛に行ったセッターに変えて投入されるブロッカー。野球であれば、勝負を占う大切な場面において相性の良い打者との対戦で登板する中継ぎ投手のことを指す。いつ来るかわからない一瞬に懸ける選手。このようないわば仕事人が今季の慶應にもいる。橋本ひかるだ。

彼女の今季の役割は”ワンポイント”。ボールのポゼッションを求めるときにベンチから投入される。難しい役割ゆえに50分間いつ試合に出場するかわからない。また、大久保HCからも「試合でこうした場面がなければ出場時間は0分だ」とも言われている。

これまでスタメンで出場するために奮闘していたが、彼女には突出した特徴がないという悩みがあった。どのようなプレーも可も無く不可も無くこなすことができる。しかし特徴のある選手の多いトップチームでスタメンを張るには至らなかった。こうした悩みを抱えていた中で告げられたワンポイント起用に対して「自分の中でこれが生きる道だな」と感じたという。

実際今季のリーグ戦3試合を振り返っても初戦の立大戦ではラスト3分の1点差を守りながらボールを敵陣で回していくところで投入。3戦目の青学戦では相手が1人欠けているシーンでチームの攻撃のリズムを作るために投入されており、その起用法は徐々に明確化してきている。

こうした起用に応えていく橋本には昨年の経験が大きく影響していた。関東FINAL4以降の出場は全日本大学選手権準決勝の南山大戦のみ。20人のベンチメンバーに入りながらも試合に出場しない日々が続いた。特に関東優勝については「獲ってもらった優勝だった。素直に喜べなかった」と話す。

関東FINALの明大戦後シーズンは最大でも4試合。何かを得てシーズンを終えなければという思いから行動も変わっていった。「ひたすら相手チームのビデオを見て、練習の時はスタメン組を潰しに行った。自分は試合に出られなくてもこのチームを強くすることはいくらでもできると思った」。スタメンだけで戦っている訳ではない。部員全員で戦っている。日本一を獲ってくれたからこそ実感できた。

最高学年となった今、後輩にもこういった気持ちを継承していきたいという。「ベンチにいるだけで甘んじて欲しくない。0分試合だとしてもトップチームにいる以上責任を持って欲しくて。練習中からチームに貢献することはたくさんあるし、勝利に貢献したと思ってもらえるように後輩のモチベーションを上げていきたい」。ベンチのまま終わる選手の気持ちは誰よりも分かっている。だからこそこのまま後輩に腐って欲しくない。そうしたメンバーを引き上げていくのが今の仕事だと話す。

12月の全日本選手権決勝まではもう100日を切った。残りの日数も少なくなってきている中で一球一球、一瞬一瞬を大切にしたいという思いが日に日に増している。例えそれが練習であっても一つ一つのプレーにも力が入る。「今の時間を大事にしないとすぐ終わるなと思っている」。

「今の自分の仕事には誇りを持っている。ワンポイントで自分が出場して流れが変わったり、次のプレーで効果が出たっていう思いを持てている」。もしかしたらもう出場はないかもしれない。それでも誰よりも強い執着心と誇りを持ち、ワンプレーに全てを懸ける仕事人。その一瞬で最高のパフォーマンスを発揮するために橋本は準備し続ける。

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